梅雨入り前のある晴れた日、富山と岐阜の県境の小さな村、庵谷。自宅の玄関の扉を開いたタカシは、大きく伸びをした。買ったばかりのハーレーにゆっくりとまたがり、エンジンをかける。村の中に響くハーレーの爆音。タカシは、結成したばかりのハーレーチーム「Deep Stroke」のツーリングに向け、自宅を後にした。

ケンゴは、連日の仕事に疲れぐっすりと眠りこけていた。ふと窓の外から聞こえてくる爆音。飛び起きて窓を開けると、走り去るタカシのハーレー。しまった!先を越された。急いで革ジャンに着替え、ハーレーにまたがり、過ぎ去ったタカシを追う。幸い、国道41号線に出る角でタカシに追いついた。バイクに乗った彼らに言葉は必要ない。顔を見合わせ、拳をぶつけ合う。それがDeep Stroke流の挨拶だ。

二年前に開通したばかりの41号線バイパス。この道によって、庵谷と川向かいの町長はとても近くなった。そんな町長のバイパスの上で、仲間の到着を待つ男がいた。チーム最年少のタカミツだ。遠くの方からやってくるタカシとケンゴのハーレー。彼らを確認したタカミツはゆっくりとバイパスへ向けて下り、庵谷からやって来た先輩ライダーに合流したのだった。

旧大沢野町の住宅街。山奥の村からやってくる仲間の到着を待ち、リーダーのチャバは、静かに自宅前にたたずんでいた。広い一本道の奥からゆっくりと迫ってくる三台のハーレー。ヘッドライトが陽炎に揺れている。そしてついにチーム四人が勢揃いした。タカシ、ケンゴ、タカミツ、そしてリーダーのチャバ。夕日の見える魚津の海に向け、四台のハーレーは出発した。一人の男に見送られながら…

41号線からスーパー農道に入り、スーパー農道からしんきろうロードへ、四台のハーレーはゆっくりと走る。若い頃は、ひたすらスピードを求めてやんちゃなバイクを飛ばしたものだ。しかしハーレーダビッドソンに猛スピードは似合わない。いらずらに追い抜くことはせず、ゆったりと走る。それが俺たち、Deep Strokeの走りだ。

四人は魚津の海の駅「蜃気楼」に到着した。ここからなら海に夕日が沈む。しかし、少し想定外だった。まだ日はかなり高く、空が夕焼けに染まるにはもう少し時間がかかりそうなのだ。しばし談笑する四人。しかし、このままここで日が沈むのを待っているのは勿体ない。富山に海岸はたくさんある。夕暮れまで、もう少し走ってみようじゃないか。四人は魚津を後にした。

国道8号線に乗り、富山市内の海岸を目指す四人。彼らの地元にはここまで広い道はない。田舎道を走るのもいいものだが、大きな国道を走るのもまたいいもの。徐々に日が下っていくのを右手に見ながら、四台のハーレーは岩瀬浜を目指した。

小さいころ、大きな夢をひとつ持っていた。恥ずかしいくらいバカげた夢を。その夢は結局叶わなかったけれども、今俺たちは、こうして自由にハーレーに乗っている。小さな夢がいつの間にか叶っていたんだ。そんなことを考えているうちに、海が見えてきた。岩瀬浜だ。

海水浴場の駐車場にハーレーを停め、革ジャンを脱ぐ。その中に着込んでいたチームのTシャツが顔を出した。穏やかな海。四人はテトラポットに登った。ふとケンゴが、一人の男がやってきたのに気付く。チャバの家を出発したとき、チームのTシャツを着て見送っていた男、ヤベッチだ。彼もチームの一員。しかしハーレーをキャッシュで買えるほど勤勉で貯蓄家なヤベッチは、連日の仕事で大型免許の取得が遅れてしまい、今日のツーリングには参加できなかった。共にハーレーで走ることはできなかったが、最後の瞬間は一緒に味わいたい。目的地にひっそりと先回りして来ていたヤベッチを、四人は歓迎する。

五人揃ったDeep Strokeの男達。目の前には沈み行く夕日。明日から、また仕事が始まる。でも今はもう少しだけ日常を離れて、俺たち五人だけの夕日を目に焼き付けさせてくれ。言葉は要らない。同じ夕日を同じ場所で見つめる仲間の存在、これ以上の贅沢は他にないじゃないか。男達は、明日に向かって沈む夕日を、ただひたすらに見つめていた。いつまでも、いつまでも見つめていた。